『小さいおうち』の絵の疑問

山田洋次監督の『小さいおうち』を見ました。
映画館に着くのがちょっと遅れて、出だしが見れなかったので、何か肝心なところを見落としたような気がして、その後別の日に二度見ることになりました。

そこで腑に落ちない疑問点はどこにあったのか分りました。
それは亡くなったタキさん(女中だった人)の部屋に、「小さなおうち」の絵が何故あるのかという疑問でした。

西へ一時間半の映画館からの帰り道、そのことで相方と話が盛り上がりました。


タキの自叙伝は戦争が終わったところで終わっています。
私は、戦後生存していた板倉(画家志望)とタキは再会したのではないかと思いました。

タキには、時子(平井家の奥さん)の家族の名誉を守りたいという気持ちと、三角関係にあった板倉への思い込みがあったでしょう。
時子の手紙を板倉に渡さなかったのは、時子の為でもあり時子へのジェラシーのせいでもあった。そのことを隠しながらタキは板倉にそれ以上近づくことはできなかったのではないか。
そして、タキは板倉と自分たちだけの幸せを思い描けず、板倉の方ははタキの真意をつかめず、どちらも生涯独身で暮らすようになった。
その頃に、板倉から思い出の「小さなお家」の絵を貰ったのではないかと想像しました。

それに対してP子さんの推理は、板倉とタキは会っていないというものでした。
手紙を渡さなかった後ろめたさがあるのなら、会うことはできないはず。戦後画家として有名になった板倉を知り、「小さなおうち」の絵を密かに購入したのではとの説でした。

その他に、この絵は、物語中出兵前にタキと板倉は会っていたことを示唆するものだ、という人もいました。

さてどうなのでしょう。
タキの部屋の「小さなお家」の絵は、映画の中で最初から何度も出てくるのです。
山田洋次作品はこれまでスッキリ分りやすいストーリーばかりだったのですが、今回は観客の其々に判断をゆだねたようです。
男女の違いもあるのかもしれません。ひょっとして、脚本:山田洋次・平松恵美子の共作でお二人の食い違いをそのまま表現したのかもしれませんね。


それにしても東京家族に続いて小津安二郎の作風を踏襲しています。
ローアングルで固定した映像で、役者の発言ごとにカメラを切り替えています。これって、家の中で寝たり座り込んだりして暮らす、老人の目線なのではないでしょうか。
切り口を家族の中だけに留めて見る。それを壊すもの(板倉)は外からやってくる。
でもタキの動揺の場面では手持ちカメラで揺れる映像にすり変わる辺りは、山田監督流で流石でした。


戦争時代の推移が戦闘シーン一切なしで進行します。
家庭の内部だけを映しながら、家族の崩壊を止められなかった結末を描いていくあたり。
最後に平井氏(坊っちゃんだった人)は言いました。「あの時代は誰もが不本意な選択を強いられた。強いられてする人もいれば、自ら望んだ人もいて、それが不本意だったことすら、長い時間を経なければわからない。そういうことがあるものです。」
タキも板倉も平井家が好きでしたが、時代に翻弄されながら不本意な選択に巻き込まれ、やがて「小さなおうち」は炎上します。


残された「小さなおうち」の絵も廃品に回されるのですが、それが1回目に見落としたこの映画の冒頭シーンでした。肝心なこの映画の象徴を、冒頭から表示してたのかもしれません。


戦争で救われなかった家族の崩壊を描きながら、それでも心温まる映画になったのは何故でしょうか。
其々の不本意な選択に揺れながらも、そこに終生時子や板倉に対し誠意を持ち続けようとした、タキの一途な心根が描かれているからだと思います。


ベルリン映画祭でタキ役の黒木華が銀熊賞受賞ということです。素晴らしい演技でした。でもお婆さん役の倍賞千恵子もかなりの名演技だったと思います。
これもまた、山田洋次監督の語り継がれる名作になっていくでしょう。



PS:
P子さん、まだ解らない所があるらしく、3度目見に行こうかと思案中です(笑)。




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Commented by moya at 2014-04-06 23:01 x
写真は小さいおうちでなくて、自然に溶け込んだ素敵なおうち♪

鈍感な私は絵についてそこまで追求しなかったのですが、
たしかにうっすらとした疑問が・・。
で、私としてはやはりP子さんの説に同感ですね。
その方がタキの生き方として頷けます。

いずれにせよ、turnipさんの映画評論は本格的で読み応えがありますね。
このシリーズ、楽しみです。
Commented by turnipman at 2014-04-09 07:17
moyaさんも会わない説ですか。
やはり人それぞれなのかもしれませんね。

これは戦後の続編も山田洋次監督に作ってもらいたいものです。
板倉が生きていて、時子の手紙が宛先通りに手渡されたことにして、そこで『小さなおうち』の絵の経緯が話されるなんてどうでしょう♪。

映画評論は他の映画ブログを参照にしてますので、真似るのは容易いです。最低他と違う自分だけの気付きを取り上げたいと思います。

Commented by tanaka-masato at 2014-04-11 10:32
こんにちは、turnipmanさん。
評論もGOOD!ですが島の家もいいですね。ちらっと小屋もいい感じ
です。
Commented by turnipman at 2014-04-15 21:09
Masato君こんばんは
今やっと家に戻ったところです。
ハードスケジュールでお会いできませんでした。
またの機会にしましょう。
by turnipman | 2014-04-06 13:51 | 映画・本 etc | Trackback | Comments(4)

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